部活動の地域展開とは何か?

― 現場指導者と地域クラブ希望団体が理解すべき地域移行の本質と未来設計ポイント ―

 中学校部活動は今、大きな転換期を迎えています。 文部科学省が推進する「部活動の地域展開等推進事業」により、休日だけでなく平日の活動も含め、地域クラブへの移行が本格化しようとしています。

 これは明治時代より校友会としてあった日本の学校における部活動の制度変更です。それだけでも大改革に違いありませんが、 教育・育成・地域社会の構造そのものを再設計する大きな改革といえそうです。

 本記事では、行政書士×サッカー・フットサル指導者×元地方公立高教員の視点から運動部活動を中心に、

  • 制度の本質
  • 育成構造の再整理
  • 現場で起きる変化
  • 指導者が今準備すべきこと

を体系的に整理します。

目次

  1. 1.部活動地域移行とは何か?またなぜ今、地域移行を進めるのか?
  2. 2.現場指導者に起きる3つの変化
  3. 3.指導者が今から準備すべきことと団体タイプ別整理
  4. 4.サッカー・フットサル界への影響
  5. 5.移動リスクと現実的マネジメント視点
  6. 6.今後の展望とリスク対策
  7. まとめ SUYAMA FOOTBALL OFFICEからの提言

1.部活動地域移行とは何か?またなぜ今、地域移行を進めるのか?

 ①「部活動の地域展開」とは、これまで学校(教員)が中心となって運営してきた部活動を、地域クラブや民間団体が主となり学校・自治体と連携しながら実施していく新たな仕組みです。

 ■ これまでの構造

 学校(教員)=運営主体

 ■ 今後の方向性

 地域クラブ・地域団体+ 学校施設の活用(+ 指導を希望する教員)+ 国・自治体の支援

 重要なのは、部活動がなくなるのではなく、運営主体が学校ではなくなり多様化するという点です。

 しかし同時に、部活動がそのまま地域に移行するわけではありません。

  • 教育的意義をどう継承するか
  • 生活指導的側面をどう設計するか
  • 責任の所在をどう整理するか
  • ガバナンスをどう再構築するか

 ここが成否を分けます。

 これは単なる「学校から外へ出す制度」ではなく、地域全体で子どもを育てる再設計であり、新しい放課後の仕組みといえるものになりそうです。

 

 では、なぜ今地域移行を進めようとしているのか?それは、次のような課題があるからです。

① 教員の働き方改革

 部活動は教育課程外活動でありながら、教員が担ってきました。長時間労働問題の中で、この構造は限界を迎えています。

 これは「部活動縮小」ではなく、持続可能な構造への転換です。

② 少子化によるチーム維持困難

  • 部員不足
  • 複数校合同
  • 廃部増加

 団体競技は「人数」が前提です。学校単独モデルではいずれ限界が見えています。例えば、サッカーは最低11人が必要です。既に人数を確保するために現在合同チームという形で活動しているところがあります。

 私はフットサル指導者でもあるので、フットサルは最低5人でチームが組めるので日常は少人数でフットサルしておき、週末にクラブでサッカーを行うこともと考えます。しかし、それではサッカーのチームがどんどん減ってしまい、サッカー活動が確保されないリスクが出てしまいます。

③ 指導者の専門性不足

 教員=競技専門家ではありません。勿論、これまで任された部活動を一から勉強して専門家になられたケースもありますが、勤務校が変わるたびに校内人事の関係で担当する部活動が変わるため、専門性を高められないやそもそも専門種目を指導できないことも一因でした。

地域クラブとの連携により、

  • 専門的育成(子どもたちの幅広いニーズにこたえやすい
  • 指導の質向上(専門性を活かすことがより可能
  • 人材活用(地域や活動内容によって)

が可能になります。

④ スポーツ参加機会の保証

文部科学省の長期設計は、

✔ 教員負担軽減
子どもの継続機会保証
✔ 教育的価値の維持発展

を同時に実現することです。

これは短期施策ではなく、令和13年度(2031年)までの長期改革構想です。

2.現場指導者に起きる3つの変化

① 指導環境の変化

 【起きること】

  • 学校単独完結ではなく地域連携型へ(地域内連携必須)
  • 方針共有・情報連携が必須(クラブの理念共有)
  • 学校、自治体との関係構築が重要(情報連携強化)

【準備】

✔ 理念の言語化
✔ 指導方針の文書化
✔ 保護者説明資料整備
✔ 評価基準の明確化

組織内のみで通用する「雰囲気重視」では通用しません。

② 雇用形態の多様化

 【起きること】

  • 業務委託
  • クラブ雇用
  • 複数クラブ掛け持ち
  • 契約ベースの報酬体系

 【準備】

✔ 契約理解
✔ 業務範囲明確化
✔ 専門性整理

 そして重要なのは、自分は何型の指導者かを整理しておくことです。

  • 才能発掘型
  • 基礎育成型
  • 競技特化型
  • 人間教育型

③ 責任の明確化

 【起きること】

  • 事故対応
  • 保険加入
  • 契約書整備
  • 説明責任

 【準備】

✔ リスクマネジメント理解
✔ 記録文化の確立
✔ 説明責任を果たせる指導

 感覚的指導から、明確な説明可能な指導へ。

3.指導者が今から準備すべきこと

■ タイプ① 既存の総合型地域スポーツクラブ(総合型地域スポーツクラブ × 部活動地域移行)

【特徴】
・法人格を持つ団体が多い
・複数競技を横断的に運営
・自治体との連携経験がある

【強み】
✔ 会計処理経験
✔ 行政との協定実績
✔ 組織図が存在する

【不足しやすい点】
・専門指導体制の弱さ
・育成ビジョンの曖昧さ

【必要な整備】

  • 競技ごとの責任者の明確化
  • 中学生年代の育成方針文書化
  • トレセン・協会との連携窓口設置
  • 安全管理マニュアルの競技別具体化

  組織はある。 しかし「地域クラブ」としての精度を上げる必要があります。

■ タイプ② 既存の単一競技クラブ(街クラブ・少年団・サッカークラブ 参入)

【特徴】
・代表者中心運営
・保護者協力型
・競技実績がある

【強み】
✔ 育成ノウハウ
✔ 地域内の信頼
✔ 選手輩出実績

【課題】
・会計の属人化
・規程未整備や大会運営経験不足
・事故時の責任整理不足

【必要な整備】

  • 収支報告書の定期公開
  • 役員規程・職務分掌
  • 指導者契約書(業務委託含む)
  • ハラスメント防止規程
  • 保険加入証明の明示

 「地域の子どもと文化の拠点」、「強いクラブ」から 「自治体と協定を結べるクラブ」への更なる進化が求められます。

■ タイプ③ 学校主導型クラブ(中学校 部活動 クラブ化)

【特徴】
・教員中心
・学校施設使用前提
・地域組織として未成熟

【強み】
✔ 生徒理解
✔ 教育的配慮
✔ 校内信頼関係                                      ✔ 中体連大会運営力

【課題】                                         これまで学校が責任者だったが、地域クラブごとになることから、
・法的主体が曖昧
・事故責任所在の明確化
・契約書未整備

【必要な整備】

  • 運営主体の構築・連携化(法人化含む)
  • 教員の兼職兼務整理
  • 学校施設等利用協定書(使用上のトラブル防止)
  • 役割や責任分担文書化
  • 保護者説明体制(これまでの学校・教員への過度の期待が続きやすい)

  教育的価値を守りながら、 「学校外団体」として再設計する必要があります。

■ タイプ④ 新規立ち上げ型クラブ(地域クラブ 新設 部活動受け皿)

【特徴】
・若手指導者中心
・理念重視
・実務経験不足

【強み】
✔ 柔軟性
✔ 制度に合わせた設計が可能

【課題】
・信用力、資金基盤
・行政・学校との連携・折衝経験不足
・その他タイプ①②と共通の課題

【必要な整備】

  • 組織化は必須(法人化は任意)
  • 規約、規則(法人化の場合定款)整備
  • 事業計画書(運営計画書)作成
  • 収支計画(法人化の場合3年収支予想)
  • リスクマネジメント設計(セーフガーディング、スポーツインティグリティ)
  • 学校、自治体等との協議記録の保存

  最初から「各自治体の認定地域クラブ要件」を前提に設計することが重要です。

■ 全タイプ共通:地域クラブ認定・自治体連携に必須の整備項目

✔ 指導体制図(責任者明示)
✔ 安全管理マニュアル
✔ 事故報告フロー
✔ スポーツ保険加入
✔ 会計透明性(年次決算)
✔ ハラスメント防止規程
✔ 個人情報管理規程
✔ 苦情受付窓口
✔ 自治体との協定書

■ 最大の4つの転換点

  1. 指導哲学の言語化・・・「なぜこの指導をするのか」を文章化
  2. 契約理解・・・業務委託契約・雇用契約の違いを理解。
  3. 安全意識の再構築・・・事故を最小限におさえる「備え」はできます
  4. 受け入れる力・・・制度変化を「脅威」ではなく「設計し直す機会」と捉える。

4.サッカー・フットサル界への影響

 地域展開により、勝利、競技力追求、育成、学び、レベルアップといったことが否定されるわけではありません。しかし、それらの一部だけにフォーカスした活動や至上主義、商業主義は厳に慎むべきです。

  • 子どもの活動選択と育成経路の多様性
  • JFAとの連動によるトレセン活動や様々な成長機会の拡充
  • 女子・フットサルカテゴリー拡充で普及と環境整備
  • 障がい者スポーツとの交流や連携でインクルーシブ活動が充実

が進む可能性があります。


日本サッカーのワールドカップ優勝は、強化という単一価値だけではありません。強化と文化は対立しません

放課後の過ごし方としてのサッカー。文化・芸術・学問と融合した
新しいフットボール文化の創造も地域展開の本質です。

強くなることだけが目的ではありません。豊かになることが本質です。

5.移動リスクと現実的マネジメント視点

地方では校区を超えた自転車移動も想定されます。

想定リスク

  • 交通事故
  • 夜間視認性
  • 天候悪化
  • 保護者監督不在

指導者の心構え

  • リスクを限りなくゼロに
  • 想定を言語化する
  • ルールを明確化する
  • メリットも同時に伝える

指導者の役割は、準備することです。活動の地域拡大を設計することから携わりましょう。

6.今後の展望とリスク対策

制度が進む一方で、

  • 指導者不足と後継者育成・役割分担設計・情報共有
  • 報酬地域差と価値の言語化
  • クラブの強みとクラブ間の会員数格差
  • 保護者負担増と連続的な改善策の提案

という課題が開始前から開始後もあると想定されます。

しかし、制度は止まりません。クラブが孤立しない、良い準備を地域全体で考えましょう。

7.まとめ -SUYAMA FOOTBALL OFFICEからの提言―

 部活動の地域展開は、大きく言えば日本スポーツの構造改革でもあると思います。

 しかしそれは理想論で進むのではありません。

・理念の整理と自クラブのタイプ別整理
・育成経路の多様化と他クラブ、学校・自治体・団体との連携
・契約や規約・ルールづくりと理解
・指導者としての良い準備と責任の自覚
・リスク回避と対応策の準備で安全な活動

これらを備えた地域クラブが信頼を獲得し、他のクラブとの違いをつくることになりそうです。

SUYAMA FOOTBALL OFFICEは、

✔ 地域クラブ設計
✔ ガバナンス整備
✔ 自治体連携支援
✔ 育成体系構築
✔ 安全管理体制設計

を通じて、「新たな地域クラブ」づくりや子どもたち・指導者・保護者の活動を応援します

未来を創るのは、理念を持ち、責任を引き受ける指導者の皆さんです。

参照:部活動の地域展開等推進事業(スポーツ庁、文化庁)https://www.mext.go.jp/sports/content/20251225-spt_oripara-000028257-004.pdf

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